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書籍『学びの見える化の理論と実際: 教育イノベーションにむけて』の刊行

2023年03月28日 代表メッセージ

 

この度、2冊目の書籍となる『学びの見える化の理論と実際: 教育イノベーションにむけて』(神奈川大学人文学研究叢書)が刊行されました。本書は学びの見える化の理論編と、実際に学びの見える化を推進する上での指針となる実践編から構成されており、学びが段階的発展するための根拠が示されています。さらに、次の計画やステップの見通しが立つことを目指したものになっています。

自分は執筆者の一人として一部寄稿させていただきました。担当したのは「第4章 行政・非営利組織における学びの見える化実践」のボランティア・NPOの協働のパートで、『協働事業にみる学びの見える化:町田市市民協働フェスティバルを事例として』。当方が事業統括ディレクターを務める一般財団法人町田市地域活動サポートオフィスが事務局を担う、町田市市民協働フェスティバル「まちカフェ!」(通称 まちカフェ!)を取り上げ、多様な主体による協働プロジェクトの創出に向けた一連のステップを可視化して解説しました。

協働については世の中的に統一された定義があるわけではありませんが、行政や企業、NPOなど、異なるセクターにおける様々な主体がお互いの強みや弱みを補強・補完し合いながら、対等の立場で共通の目的や目標の達成に向かっていくアプローチを指します。その協働の意義や必要性は理解できたとしても、関係者それぞれの意図や思いには温度差があり、スキルや専門性のレベル、アプローチ方法も違っており、さらには目指すゴールの難易度もそれぞれです。これらの前提を考慮せずにいきなり協働が実現するわけではなく、いくつかの段階を経てようやく協働というゴールに辿り着いていきます。このことを踏まえ、協働に関わる関係者の間で自分たちは今どの段階にいて、次の段階はどのようなもので、そこに移行するためにはどのような情報のインプットやスキルアップ、共通の体験が必要なのか、そしてそこから得られる気づきや学びは何かということを設計して可視化し、現在地点と次の到達地点を確認しながら協働事業やプロジェクトを形成していかなければなりません。

 

【出典】『学びの見える化の理論と実際: 教育イノベーションにむけて』(p.165)

 

VUCA(Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[曖昧性])の時代を迎え、今や社会は、単独の組織や個人ではなく多様な主体による協働でなければ解決できない社会課題であふれています。2019年から開始となった休眠預金制度の効果的な活用を促進する動きもあり、日本でも米国版の協働、「コレクティブ・インパクト」の事例が多数紹介され、多様な主体による協働があらためて注目されています。

協働には多様で多数の人や組織が関わるため、誰と、どこへ、どうやって行くのかという合意形成を行うのは至難の業。だからこそ、協働コーディネーターの存在が不可欠です。協働コーディネーターは協働事業やプロジェクトの形成に向けたステップを可視化し、現在地点と次の到達地点、その間を結ぶ様々な仕掛けに対する共通理解を持ちながら、協働を丁寧に進めていかなければなりません。本書では、町田市地域活動サポートオフィスのスタッフが協働コーディネーターとしてどのような役割や機能を果たしながらまちカフェ!を運営していったかを、上述の協働のステップに照らし合わせながら詳述しています。

学びの見える化の理論と実際: 教育イノベーションにむけて』では、まちカフェ!という地域イベントを事例として取り上げながら、協働に向けた具体的な流れを細かくお伝えしました。読者の皆さまの地域での協働事業やプロジェクト、イベントの実践において、何かしら参考になれば嬉しく思います。

高額(5,500円)なのが手が出しづらいところですが、がっつり読み応えがあります。是非ご一読ください!

 

 


<書籍情報>

出版社: 勁草書房
著者: 齊藤ゆか(編著)、森和夫(編著)、西村美東士(編著)
発売日: 2023/3/27
判型・ページ数: A5・304ページ
ISBN-10: 4326251719
ISBN-13: 978-4326251711
定価: 5,500円(税込)

<書籍概要>

教育活動には明確な目標設定と計画が求められる。しかし、学びによって人や組織が変わっていく過程を判断するための「学びの見える化」は十分に行われてはいない。本書は、生涯教育や職業教育の理論や実践の蓄積を踏まえ、各分野で適用できる必要能力の構造化や体系化の実践例を示し、人材育成や能力開発を推進する方法を明示する。

<目次>

まえがき
本書の概要と使い方

第1章 なぜ、学びを見える化するのか
1.教育・学習を見える化する意義と役割
2.教育・学習における問題
3.能力の見える化から学びの見える化へ

第2章 学びの見える化の方法論
1.学力の見える化をめぐる問題
2.能力の見える化の方法としてのクドバス
3.職業能力の見える化がもたらすもの:必要能力の構造的理解
4.見える化プラットフォームの設定

第3章 企業における学びの見える化の実践
1.現場力を向上するシステムの構築
2.トヨタ自動車(株)の技術・技能伝承活動
3.技術・技能伝承コンサルテーションのプロセス
4.看護管理者教育システムによる副看護師長育成
5.開発コンサルタントに必要な能力

第4章 行政・非営利組織における学びの見える化実践
1.海外技術協力プロジェクト・コンサルテーション
2.自治体における生涯学習・まちづくりの企画立案
3.ボランティア・NPOの協働
4.体験活動の普及を図る民間団体の持続的な運営体制と課題
5.若者への理解と支援活動

第5章 学校における学びの見える化実践
1.国による高等教育の質の保証の動向
2.社会教育主事等の養成カリキュラムの開発
3.助産師教育の問題と実習教育の課題
4.中学・高校の社会科教育の「教え」と「学び」
5.保健体育科教員の養成プロセスと実習教育の課題
6.古典武術の暗黙知分析に基づく教材開発

第6章 学びの見える化の課題と展望
1. 学びの見える化の課題:学びの見える化を妨げる「能力論」の動向を中心に
2.学びの見える化の課題から展望へ

引用・参考文献
あとがき
索引
執筆者一覧