地域づくりに求められる「ソーシャル・コーディネーター」
2019年度から講師を務めている神奈川大学の社会教育課程で情報誌「Social Coordination Letter」(2021年度前期報告)を発行しました。その中で、『地域づくりに求められるソーシャル・コーディネーター』と題するコラムを執筆しましたのでご紹介します。
【コラム】地域づくりに求められるソーシャル・コーディネーター
VUCA*の時代を迎え、今や社会は、単独の組織や個人ではなく多様な主体による協働でなければ解決できない課題であふれかえっています。新型コロナウイルス感染症にみるように、こうした課題は予測ができない、これまでの解決策が通用しない、問題の把握が難しい、関係者間で見解がずれる、利害対立が大きいといった特徴があり、合意をつくりながら解決に向かっていくことが非常に難しいというのが実態です。 *Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[曖昧性] 地域づくりにおいても、それが地域課題の解決であれ、新しい魅力の創出であれ、多様な主体による協働が求められています。協働の推進には“プレイヤー”とそれを支援する“サポーター”が必要ですが、プレイヤーは高齢者や障がい者、子どもなど、特定の受益者に対して直接サービスを提供する一方、サポーターは制度づくりから組織運営ノウハウの提供まで、プレイヤーを様々なかたちで支援する役割を負っています。地域では行政や社会福祉協議会、市民活動支援センター、大学のボランティアセンターなどがこれに該当します。「ソーシャル・コーディネーター(Social Coordinator)」とは、主にサポーターの立場で活動する人や組織を指しますが、地域における人材や組織、物品や場所、お金から、産業、名産品、観光名所、自然、文化・歴史などまで幅広く社会資源を把握するとともに、必要に応じてそれらをつなぎ合わせたり、関係者間で発生する様々な利害調整を行いながら地域づくりを推進する役割が期待されています。 地域には、自治会・町内会などの地縁組織、NPOや市民団体などのテーマ型組織、福祉団体、教育機関、行政、企業、ソーシャルビジネス、メディアなどの多様なプレイヤーが既に存在していますが、現状、これらの主体が有機的につながっているとはいえません。実際には各主体がそれぞれの都合や立場から主張を行うにとどまり、既存のメンタルモデル(思い込みや暗黙の前提)や従来の関係性を超えた取り組みに発展していくのは至難の業です。ソーシャル・コーディネーターはこうした状況を打開すべく、関係者同士の対話の場をファシリテートしながら、実態把握と共有、課題の構造分析、関係者の整理、目指すビジョンやゴールの設定、関係者間のコミュニケーションの維持・深化など、地域づくりにおける様々な協働事業の推進を支援していきます。 2年目となる「かながわユースフォーラム」は、子ども、高齢者、ジェンダー、祭り、商店街という5つの地域・社会課題の解決に向けて、社会資源の一つである学生と大学がどのように関わることができるかを模索するコーディネート機能を意図したイベントです。神奈川大学生を中心とした実行委員会は、3年生がプレイヤーを、4年生がサポーターの役割をそれぞれ担いましたが、1年ごとに違う役割を経験することでコーディネートを行う際に不可欠なプレイヤーの視点や想いを体験することができました。フォーラムが単なる若者による一過性のイベントではなく、その企画・実行をつうじて個人的な成長も遂げながら、ソーシャル・コーディネーターとしての資質を磨く場として今後さらにプログラムを改善していきたいと考えています。 |
コラムでも紹介している「かながわユースフォーラム」も来年度で3年目となります。これまでの2年間で積み上げてきた経験をさらに発展させ、地域全体にソーシャル・コーディネーターの活躍の場が広がっていくことを楽しみにしています。