システムコーチングと行動指針の策定
子どもの居場所づくりを行うNPOにて、バリュー(行動指針)を策定しました。
NPOでは、どのような社会をを目指すのかという「ビジョン」や、その中でどのような役割や使命を果たすのかという「ミッション」が必要なのは間違いありません。企業と比べても、これらビジョンやミッションに対する共感が、スタッフや理事という内部人材や、寄付者やボランティアといった外部の支援者がNPOに関わる理由と言っても過言ではないでしょう。こうしたビジョンやミッションは団体設立にあたって代表が決めたり、メンバーや関係者を集めたワークショップで決めたりと、策定の方法は様々。昨今では、ビジョンやミッション策定の重要性がNPOセクターにも浸透してきたせいか、多くのNPOが何かしらのかたちでこれらを策定するようになった印象があります。
その一方で、自分たちは何を大事にしたいのか、どのような関係性でありたいのかといった「バリュー」まで策定している団体はまだまだ少ないように感じます。バリューは、行動指針、行動原則、価値規範、クレド、ルールなどとも呼ばれ、大事にしたい価値観からそれを行動(メンバー間と受益者向けの2通り)に落とし込んだものまで様々です。ビジョンやミッションと違って外向けというより内向けのものであるため、策定自体に意識が向きにくいということもあるでしょう。特に設立のタイミングでは、何を目指すのか(ビジョン)とそのために何をやるのか(事業)に意識が向いているので、自分たちの関係性については後回しになりがちです。もちろん、内部的な情報なので策定されていてもあえて外部には公表していないということもあるでしょう。
仮にビジョンしか策定されていないとすると、前に進む力は湧いてくるのですが、ともするとそのスピードや目標達成意欲だけがスタッフのパフォーマンスを評価する基準と見做されることにもなりかねません。徹夜して、スタミナドリンク飲んで、寝ずに働いて、、、といったことだけが評価の基準になってしまうということです。その結果、「自分はこんなに頑張っているのに、、、」という相互の関係性の不和も起きてしまいます。適度な「まだまだ!」は良いのですが、それが過剰になり、お互いの関係性も身体も壊してしまっては身も蓋もありませんね。
バリューを考えるということは、旅の目的地は決まったけれど、そこにフェラリーをかっ飛ばして不眠不休で一目散に辿り着きたいのか、それとも路線バスを乗り継ぎ、お喋りをしながらえっちらおっちら辿り着きたいのかということを考えるということです。目的地がビジョンだとすると、そこへの向かい方・辿り着き方がバリューと捉えると良いでしょう。誤解のないように、この例ではどちらが良い悪いということではなく、好き/嫌い、出来る/出来ない、必要/不要を含めた、メンバーでじっくり話した上での「選択」の問題であるということですすね。
バリューを策定することで、ビジョンの実現に向けた頑張りの力加減やお互いに居心地の良い距離感などが確認でき、組織に心理的安全性が生まれ、お互いに言いたいことも言い合えます。そして感情面の起点や支えやになることもあります。組織の規模が拡大するにつれて業務が増えてくると、忙しさのあまり、目先のやらなければならないことをこなすのに時間が取られ、表層的な思考面に意識が偏ってきます。その結果、心の奥深くにある感情や気持ちが置き去りにされたり、蔑ろにされたりして、お互いを思いやる気持ちもなくなってくるのです。またお互いの約束ごとが言語化され、明文化されていることにより、自分たちのあり方を振り返る際の目印や基準になるため、問題点や改善点にも気づきやすいというメリットもあります。
社会環境が変わったり、組織体制や個々人のライフステージが変わることでメンバーの関係性も変わります。そういう意味では、ビジョンやミッションと同様、一度決めたら未来永劫変わらない固定されたものではなく、状況を見ながら柔軟に変えていくものです。
この度サポートしている団体は既に設立10年以上が経った団体で、組織の規模(お金も人も)も設立当初とは比べ物にならないくらい拡大してきました。それに伴って様々な関係性の歪みや軋みも生じ始めていました。見てみないふりをする、なかったことにする、放っておく、誤魔化すということがこれまでは通用していても、もはやそれで済ますことができないくらいの組織に成長してきています。だからこそ、一度しっかりと立ち止まって、腹を据えてこれから先の自分たちのあり方について時間をかけることが大事です。