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桜川市職員研修「マーケティングとファシリテーションによる政策づくりの実践」

2025年12月26日 事業レポート

 

クリスマスイブの12月24日(水)、茨城県桜川市にて政策形成力の向上に向けた「マーケティングとファシリテーションによる政策づくりの実践」研修を行いました。主たる対象は入庁5年程度の中堅職員約20名で、9時から17時までの終日研修です。

研修の全体構成を大きく3部に分けて実施しました。まずは第1部では、「公務員にとってのマーケティングを理解する」というテーマで、企業と自治体との違いなどをお伝えしながら、 政策・施策・事業づくりにおいて公務員に求められるマーケティング的思考の必要性と意義を学んでいただきました。

「なぜ公務員がマーケティングを学ぶ必要があるのか?」という問いは、多くの公務員の皆さんが持つものです。企業のように利益や売り上げの拡大が自治体の存在意義でもゴールでもありませんが、消費者が製品やサービスを購入・利用するに至るまでの一連の行動プロセス(企業にとってのゴール)は、地域内外の住民の行動変容を促し、自治体の掲げる様々な分野における政策の成果を創出するという点においてもそのまま応用・実践できることです。

自治体においては、観光や移住定住の促進、ふるさと納税などは企業と同じようなマーケティング手法がそのまま活用できます。一方、社会インフラの整備など目に見える取り組みはありますが、政策の大半は製品づくりというよりも福祉や教育、健康、人権をはじめ、無形のサービスを扱うものであるため、その価値を伝えるのが難しいという側面があります。さらに、オーバーツーリズム対策やゴミの不法投棄禁止、騒音の発生規制など、需要や行動の抑制を促す政策(ディマーケティング[Demarketing]と呼ばれる)はターゲットに我慢や苦痛、不便を与えるため、理解や行動促進の難易度は高いものです。

 

 

第2部では、「政策形成に求められる 5 つの実践ステップを学ぶ」と題して、実例を挙げながら、❶目指すビジョンと成果の確認❷ターゲットの設定❸5つの⾏動変容ステージの設計❹マーケティングの5Cによる事業の立案❺指標と⽬標値の設定までの 5 つのステップを自分の主たる担当業務を取り上げてワークを行ってもらいました。今回は終日の研修ということもあり、このパートにじっくり時間をかけて解説をしました。

「基本構想」等で掲げられている、所属する自治体の掲げる地域ビジョンについては、日々の業務の中ではあまり意識することはないかもしれませんが、ビジョン↔︎政策↔︎施策↔︎事業(担当業務)という政策体系の構造を意識しておく必要があります。論理構造の破綻した政策が庁内外の利害関係者から理解されることはありません。

ターゲットの設定について公務員は、住民、高齢者、若者、女性、子ども、etc.といった大きな括りでターゲットを捉えてしまいがちなため、事業をつうじてどのような具体的な意識や行動の変容を起こしたいのかを描くのが難しいものです。一方、ターゲットの解像度が高いほど、政策の目指す成果は想定しやすくなります。このことを踏まえ、今回は短い時間でしたが、「ペルソナ」(あたかも実在するかのような具体的な人物像)を作成するワークも行なってもらいました。担当業務の性質によって、普段あまりターゲットと接することがない業務の場合や、ターゲットを意識しながら業務を行っていない場合は、作成に難しさを感じた方もいらっしゃったことでしょう。

さらにそのペルソナの人物像を念頭に置きながら、どのような行動ステージを経て政策が掲げるゴール(成果)に辿り着いていくのかという流れを描きました。①知る→②関心を持つ→③事前行動をする→④本格行動をする→⑤行動を展開する、という基本のフレームワークを活用して、担当業務におけるペルソナの具体的な行動変容を整理していきました。

その流れを実現するために、事業をつうじてどのような働きかけを行っていくと良いのかについて、具体的な打ち手を検討していくのが次のステップです。①価値(Customer Value)②負担(Cost)③コミュニケーション(Communication)④利便性(Convenience)⑤快適さ(Comfort)、というマーケティングの5Cの観点から、前出の行動ステージを推し進めていくためのアイデアを検討してもらいました。

最後に行うのが指標と目標値の設定で。ターゲットの行動変容が「成果(Outcome)」であり、その成果を創出ための自治体の打ち手が「活動(Output)」ですが、この両方において指標と目標値を設定する必要があります。ともすると、自分たちのやった活動だけ指標と目標値を設定してお終いとなることが多いですが、むしろ重要なのは成果です。どのような活動をしようが、成果につながらないようであれば、その政策に何らかの問題があり、見直しが必要ということになります。

 

 

最後の第3部では、「公務員に求められるコーディネーション・スキルを学ぶ」をテーマに、組織内外の関係者をつなぎ、話し合いの場を整え、対話を通じて合意形成を促すためのコミュニケーションやファシリテーションの基本技法を学んでいただきました。VUCA(Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[曖昧性])の時代と呼ばれる現在において、マンパワーや財源不足という課題を抱える自治体だけで複雑化・相互依存化した地域や社会の課題解決を行うことは至難の業。そこには地域内外の多様な主体との協働連携が不可欠です。政策・施策・事業づくりからその実践に至るまでの一連の流れにおいて、今後、公務員は「コーディネーター」としての役割が求められます。

その際の中核的なスキルが「ファシリテーション」です。言葉としてはかなり自治体にも浸透しつつありますが、その実践となるとかなりハードルが高いのも事実です。この研修では、ファシリテーションの基本をお伝えしつつ、合意形成に向けた体験ワークを行ないました。協働や連携の推進においては、庁内外で多様な立場の人や組織が関わるため、当然、利害関係も複雑なものとなります。その結果、それぞれがそれぞれの立場からの正しさや意見・主張を述べるにとどまり、なかなか合意にも、そして課題解決にも至らずに頓挫してしまうということが起こりがちです。

限られた時間の中でのグループワークでしたが、個々のメンバーが言葉にした意見・主張の背後にある想いや感情(願いや不安など)の部分にまでグッと踏み込んでいくことの意味や必要性を感じてもらえたことと思います。今や社会全体が多様性を前提としており、だからこそ議論でも会話でもなく、「対話」が求められます。対話では、共通の⽬的やゴールに向けてお互いの考え⽅や意⾒、その背景にある⽴場や価値観、信念などに意識を向けていきます。唯⼀の正解があるという⽴場を⼿放し、他者の考え⽅や意⾒に対する評価判断も保留し、相⼿の⽴場に⽴って共感的に伝え、聴き合う創造的なコミュニケーションです。今後の公務員の求められる 他者との関わり方を⾒直すきっかけになれば幸いです。

 

 

公務員の皆さんには馴染みが薄いマーケティングがテーマでしたが、担当業務の成果向上に向けてすぐに実践できる知見やノウハウがあったようです。入庁5年程度の中堅に差し掛かろうとする職員が大半だったので、理解力・吸収力も高かったのかもしれませんね。あらためて、自治体や公務員にもマーケティング思考とその実践が有用であることに手応えを感じています。今回の研修をつうじて、まずはマーケティングという眼鏡を通して、地域内外の住⺠・事業者のニーズや価値を整理し、政策の成果創出に向けた視点を得られたようなら嬉しいです。